お知らせ

二人の王様のお話し 第42回写経の会の法話

二 人 の 王 様 の お 話 し

― 正しい徳 ―

昔バラナーシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩は王子として生まれました。
やがて父王が死ぬと王位につき、正しく平等に国を治め、自分の欲のままに物事を決定することはありませんでした。
王が正しく国を治めているので、大臣たちも正しく裁判をおこない、裁判が正しくおこなわれるので、
いつわりの訴訟を起こす者もなくなりました。

そこで王は考えました。
「正しく国を治めていたら、法廷にやって来る人がいなくなり、訴訟の騒ぎもなくなった。
しかし私はまだ自分の不徳をなくす努力をしなければならない。そのためには欠点を教えてくれる人を探さなければならない」
ところが宮廷の中には、王の不徳を語る者はいませんでした。
「彼らは私を恐れているのだろうか」
王は町の中にとどまらず、国の周囲や遠く辺境にいたるまで探したましたが、
やはり自分の欠点を教えてくれる人は見つかりませんでした。

その時代、コーサラ国の王も正しく国を治めており、やはり自分の欠点を教えてくれる人を探し回っていました。
ある日のこと、森の中の、馬車がすれ違うだけの道幅が無かった所で二国の一行が出くわしました。
先にコーサラ国の従者が大声で言いました。
「馬車を道からどけたらどうなんだ」
するとバラナーシ国の従者がやり返しました。
「お前の方こそ馬車を脇に寄せろ。この車にはバラナーシ国の王が乗っておられるのだ」
「こちらにはコーサラ国のマツリカ王が乗っておられるのだ。お前の方こそ道をゆずれ」
バラナーシ国の従者は困ってしまいました。
「向こうも王様だというが、さてどうしたらいいだろう。」
そして「いい方法がある。若い方の王様が道をゆずればいいのだ」と思いつき、
コーサラ国王の歳をたずねると、二人とも同じ年齢でありました。
さらに国の大きさ、財産、家柄、名声なども同じだったので、「それでは徳の高い方に道をゆずることにしよう」と考えて、
相手の従者にその王様の徳行をたずねました。
するとコーサラ国の従者は堂々と答えました。
「マツリカ王は硬いものには硬いものを入れ
柔らかいものには柔らかいものを入れる
善なるものには善によって打ち勝ち
不善なるものには不善をもって打ち勝つ
わが王はこのようである。だから道をゆずれ」

続けてコーサラ国の従者がたずねました。
「そういうお前の王様の徳はどうなんだ」

そこでバラナーシ国の従者が、「それでは聞きなさい」と威厳をもって答えました。
「柔和によって怒りに打ち勝ち
善によって不善に打ち勝ち
吝嗇(りんしょく)なるものに布施で打ち勝ち
うそを語るものには真実で打ち勝つ
わが王はこのような方だ。だから道をゆずれ」

これを聞くとマツリカ王と従者たちは急いで馬車から降り、その馬車を脇に寄せて道をゆずりました。
バラナーシの国王はマツリカ王に教えを説いて自分の国に帰り、それからも長きに亘って布施などの善行をおこない、命がつきると天への道を上っていきました。
マツリカ王も教えを守って善行をおこない、その命がつきると天への道を上っていきました。

世の中は難しいもので、本当に良いものがあったとしてもそれを無理強いすることによって、その良いものから遠ざかってしまう事があります。
自分が正しいからと言って、正しくない他の人に暴言をはく人もいます。
周りが悪い事をしているからと、右ならえで悪い事をする人もいます。
でも、悪い事をしている人も、心の中では本当はこれは悪いことなのだと思ってしている事が多いものです。
悪い事をしているからと言って、悪い言葉やきつい態度や行為で接するのではなく、優しく諭してあげる、寄り添ってあげることが出来るのなら、
その人は本当の善い心を取り戻す事ができるでしょう。
千葉市 日蓮宗 法話 写経 写仏

平成二十九年二月 写経の会(第四十二回目) 法 話