象 使 い の お 話 し
― 徳を積むこと ―
昔々、バーラーナシーでブラフマダッタ王が国を治めていた頃、菩薩はバラモンの家に生まれました。
成長した菩薩はタッカシラーで学問を習得し、両親が亡くなると出家して、ヒマラヤで修行をしました。
ある時、バーラーナシーに托鉢に来た菩薩は、王宮に使える善良な象使いに出会い、彼に請われるままに象使いの庭園に滞在することになりました。
ある夜、森で薪を集めていて城壁の閉門時間に遅れた一人の木こりが、しかたなく森の神殿の祠で薪を枕に寝ていました。
神殿の大木には野生の鶏たちが住んでいました。
鶏たちは仲が悪いようで、ちょうどその時、上の枝の鶏が下の枝の鶏の背中に糞を落としました。
下の鶏が「何でこんなことするんだ!」と怒るのもかまわず、上の鶏はまた下の鶏に糞をかけたのです。
怒った下の鶏が「聞いて驚くな。俺を殺して焼いて食べると、次の朝千金を得られるんだぞ!」と大声を出すと、
上の鶏は「お前、そんなことでいばるなよ。俺の太ももを食べると王になる。
外側の肉を食べると男は将軍、女は第一王妃。骨つき肉を食べると在家者は大蔵大臣、出家者は国師だぞ」と自慢しました。
それを木の下で聞いていた木こりは、すぐに上の枝の鶏を捕らえて殺し、城門が開くとすぐに家に帰り、妻に鶏を料理をさせました。
木こりは「まず沐浴して身体を清めてからこれを食べよう」と、鶏肉料理を壺に入れ、それを持ってガンガー河に行きました。
木こりが沐浴していると突然高波が襲いかかり、壺をさらって木こりを溺れさせました。
木こりは、何とか水から逃れてやっとの思いで家に逃げ帰りました。
波にさらわれた壺は下流に流され、象を沐浴させていた象使いがそれを拾いました。
象使いは壺の中の料理を見て、行者に供養しようと思いました。
菩薩である行者は天眼によってこの一部始終を知り、象使いの家に行きました。
そして、鶏肉料理を供養しようとした象使いに、「この肉は私が分けましょう」と言って、
太ももの肉を象使いに、外側の肉を象使いの妻に与え、自分は骨のところの肉を食べました。
そして「あなたは三日後に王になるでしょう。そのことを心にとめておきなさい」と言いました。
その三日後、隣国の王が攻めてきて、城壁を取り囲みました。
王は自分が逃げるために象使いに自分の服を着せて王に変装させ、「お前は象に乗って戦え」と命じ、
自分は家臣に変装して戦場の後ろの方に隠れていました。
ところが王は、すぐに矢に射られて死んでしまいました。
それを知った象使いは、蔵から大金を取り出し、「金の欲しい者は前に出て戦え」と太鼓を打ち鳴らし、とうとう敵軍を蹴散らしてしまいました。
大臣たちは国王の葬儀を終えた後、王の座について協議しました。
そして「王様は象使いに自らの衣を与えられた。象使いは勇敢に戦って勝利を得た。彼に王になってもらおう」と、象使いを王位につけました。
象使いの妻は第一王妃となり、菩薩は国師となりました。
人は時に大きな財産を築くことがあります。宝くじや遺産相続、株などもそうでしょう。
しかしながら、徳を積んでいない人はその財産をもてあまし、使い方が分からないため散財をし、
それ以上に借金をしてしまったり命を狙われたり、人生の道を間違った方向に進んでしまったりもします。
徳のある人は善行を行い、慈悲の心を持ち、苦を除き、施しなどの行いも良くするため、その周りには良い人が集まり、またお金も集まってきます。
そういう人間になれれば本人も周りの人も幸せになれるものです。
平成三十年十月 写経の会(第六十二回目) 法 話