お知らせ

牛 の 兄 弟 と 豚 の お 話 し

牛 の 兄 弟 と 豚 の お 話 し

― 長寿の食べ物 ―

その昔バーラーナシーにおいてブラフマダッタ王が国を統治していたとき、菩薩はある村で、一人の地主の家の牛として生まれました。
マハーローヒタと名づけられた彼には、チュッラローヒタという名の弟がいました。
この二頭はとても良く働くものですから、その家の運搬の仕事は兄弟牛の成長とともに増えていきました。

その家には一人の娘がいました。
彼女は、都に住むある良家の主人から、自分の息子の嫁に欲しいと望まれていました。
彼女の両親は娘の婚礼の際の来客たちのご馳走の品にしようと、飼っていたムニカという名の豚に、その日からミルク粥の食事を与えるようになりました。

ムニカが美味しいミルク粥の食事をとっているのを見て、弟牛のチュッラローヒタは、兄に尋ねました。
「この家の運搬の仕事は増えているけれど、それは僕たち二人の兄弟が頑張っているから増えているんだ。
なのにご主人様はこの僕たちには草やわらをくれるだけで、豚はミルク粥の食事で飼っている。
どういうわけであいつは、あんなご馳走を貰うんだろう」

そこで兄は彼に言いました。
「なあ、チュッラローヒタよ。
おまえはあいつの食べものを羨んではいけないよ。
あの豚は、死ぬ前の食事をとっているんだ。
娘の婚礼の際の来客たちのご馳走の品にしようと、この家の人たちはあの豚を飼っているんだよ。
もう、何日か経ったらその人たちが来るだろう。
そのときあの豚が足を掴まれて引きずられ、豚小屋から追い出されて殺され、来賓たちが食べる料理にされるのを、おまえは見るだろう」
そして続けて言いました。
「死に際の食べものを食べている豚を、お前は羨んではならないよ。
選り好みをせず籾殻を食べるのが長寿のしるしなのだよ」

それからまもなくして、かの家の人たちがやって来て、ムニカを捕らえ、いろいろな方法で料理してしまいました。

菩薩である兄牛は、弟牛に聞きました。
「おまえ、ムニカを見たかい」
チュッラローヒタは答えて、
「兄さん、ムニカの食べものの結末を、僕は見たよ。
あいつの食べものより百倍も千倍も、ぼくたちの草とわらと籾殻だけの方が上等で長寿のしるしだね」

隣の芝生は青いという言葉がありますが、それは人間の性ですね。
人生において調子がよい時はそれほどでなくても、病気やケガ、人間関係がうまくっていないときほどそのように思えるものです。
うまくいっているのは自分のおかげ、うまくいかない時は人のせい。
気が付かないうちにそう思っているからです。
他者の幸せを自分のものと思えるようになると、世界の見え方が変わります。
実は、笑顔でいるひとの周りには笑顔の人が集まるというのはそういうものなのです。
笑顔でいる人の幸せを喜んでいるので、自然に笑顔になっていくのですね。
逆もまたそういうもので、不平不満ばかり言う人の周りには自然にそういう人が集まってくるものです。
自分が置かれている状況をしっかりと見つめ、幸せな人生にしたいものですね。

平成三十年九月 写経の会(第六十一回目) 法 話

千葉 写経 写仏 イベント 日蓮宗