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第29回 写経の会の法話

こんにちは、こちらは慈悲の心と人の縁を、千葉市から伝え広めるお寺 日蓮宗 本円寺のブログです。
今回は第29回 写経の会にてお配りした教箋と、お話しした法話についてお書きします。

猿 と 庭 園 の お 話 し

― 浅知恵は身の回りも滅ぼす ―

その昔、バーラーナシーという国がありました。
毎年盛大にひらかれるお祭りの時期、人々のあいだでは、これから行われるお祭りの話でもちきりでした。
年に一度の祭りの日が近づくにつれ、人々は準備のために目まぐるしく動き回り、夢中になっていました。

そのころ国王の庭園には多くの猿たちが住んでいました。
庭園の管理者は、「この猿どもをうまく手なづけて水やりをさせれば、私は祭りに出掛けることができる」と考えました。
そこでボス猿のところへ出向いて「この庭園はお前たちにとっても大切なもので、ここにある花や果実や若芽を食べてお前たちは生きている。
わたしはしばらくの間出掛けてきたいので、留守中この庭園にある苗木に水をやってくれないか?」と訊ねました。
ボス猿は快くひきうけたので、彼は水をやるためのバケツと水さしを猿たちに与えて、いそいそと祭りに出掛けて行きました。
話しを聞いていた真面目な猿たちはさっそくバケツと水さしを使って苗木の水やりをしようとしましたが、あらためてボス猿が大きな声で、
「さあみんな、水というものは大事に節約して使わなくてはならない。お前たちは苗木に水をやるときに、一本一本根を引き抜いてよく観察し、
根が長くて地中深くまでのびている苗には多めの水を、まだ根が短くて浅いところまでしかのびていない苗には少なめの水をやりなさい。
そうすればあとで、われわれにもこの貴重な水が残ることになるだろう」と、自分の知識の深さを見せました。
猿たちは「なるほど」と同意して、ボスに言われたとおりにしました。

ちょうどそのときに、あるひとりの賢い人が王宮の庭園に通りがかり、猿たちのしていることを見かけてこう言いました。
「やあ、猿たちよ。どうしてお前たちはいちいち苗木を引き抜いて、根を見てから水をやっているのだい?」
猿たちは答えました。「私たちのボスが、こうするようにと私たちに言いきかせたのです」
賢い人は、このことばを聞いて、
「ああ、全く嘆かわしいことだ。智慧のない愚かな者たちは気の利いたことをしているつもりで無益なことばかりしているのだ」と考えて、
次のような詩句を唱えました

有益な事にうとい者は、役に立とうとしながらも全く幸福をもたらさない
その愚か者が逆に益あるものを滅ぼすばかり
あたかも園林に住む猿のように

このようにして、その賢い人は、詩句によってボス猿を諭して、静かな笑みを浮かべながら、庭園を立ち去りました。

現代はテレビ、ラジオ、週刊誌、インターネット等でさまざまな情報が得られる便利な世の中になりました。
その反面、浅い知識だけで全てを知ったような間違った感覚をもっている人も、増えてきたようです。
大切なものほど奥深いものですが、それすら解ったつもりでいる人も多いのが現実です。
猿のボスも水を貴重なものだと知っていつつもその知識に惑わされ、あやうく庭園を滅ぼすところでした。
知識や論理はもちろん大切なものですが、それに振り回されることにより、本質を見失わないようにするのが大切ですね。
「知恵」ではなく、「智慧」を持てるようにしたいものです。

平成二十八年一月 写経の会(第二十九回目) 法 話

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