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第26回 写経の会の法話

こんにちは、こちらは慈悲の心と人の縁を、千葉市から伝え広めるお寺 日蓮宗 本円寺のブログです。
今回は第26回 写経の会にてお配りした教箋と、お話しした内容についてお書きします。

キ ン ス カ の 木 の お 話 し

― 物事の本質 ―

その昔、パーラーナシーの国に、四人の王子がおりました。
ある時、王子たちが集まっていろいろな話をしているうちに、いつしかキンスカという木の話になりました。
しかし、四人ともキンスカという木を見たことがありませんでした。
「だれも見たことのない木の話をしても、結論が出ないな」
四人はキンスカの木を見にいこうと相談しました。

「ねえ、あの年寄りの従者に頼んでみよう」
四人は従者の所へ行き、こう言いました。
「わたしたちはキンスカの木というのが見たいんだけれど、知っていたら、その場所に連れていってくれませんか」
「よろしゅうございます。でも王子さま、この車はわたしのほかに一人しか乗れません。
それにたいへん忙しいので、わたしの都合のつく時に一人ずつお連れすることにしましょう」
従者はそう言って承知してくました。

まず、第一の王子を馬車に乗せて森へ連れていきました。
「はい、これがキンスカの木でございます」
木はちょうど、芽を吹いている時でした。
第二の王子は、若葉が盛んに茂っているころに見せてもらいました。
第三の王子は、花のたくさん咲くころに見せてもらいました。
第四の王子は、実がたくさんついているころに見せてもらいました。

その後、四人がまた集まった時、それぞれが得意そうにキンスカの木について話し合ったのです。
第一の王子は言いました。
「キンスカの木は赤い芽がきれいだ。まるで柱が燃えているようだった」
第二の王子は言いました。
「いや、たくさんの若葉が茂った大きな木だったよ」
第三の王子が言いました。
「わたしは真っ赤な肉のかたまりみたいだと思いました。人の手のひらみたいな花の形で、少し気味が悪かったけれど」
第四の王子が言いました。
「そうじゃないですよ。見事な実ばっかりの木ですよ……」

そんなわけで、四人は各々、自分の意見を固く言い張って譲りません。
そこで、みんなは父王のもとへ出かけていきました。王はちょうど水浴のすんだところで、きげん良く四人の息子を迎えました。
「お父上、わたしたちは皆、従者からキンスカの木を見せてもらったのですが、お互いに言うことは全く違っています。
どうしてでしょう。いったいキンスカって、本当はどんな木なのですか」

王は、一人一人にもう一度見たものを詳しく説明させました。そしてこう言いました。

「みんなは確かにキンスカの木を見たのだ。
でも、その見せてもらった時、これはキンスカのどんな時の姿なのか、時期によってどのように違うものなのかをどうしてしっかり聞いておかなかったのだ。
たとえばこれはキンスカのどういう時期だからこんな赤い芽が出るのか、葉はいつ出るのか、実はどこへどのようについていつなるのか、こういうことを一つ一つ、よく聞かなければいけない。
目の前のことだけを見て帰るから、部分的なことしか分からず、キンスカについて完全な知識は得られないのだ。キンスカばかりではない。
物事はみんな、あらゆる自分の知恵を絞って、完全な形でとらえたり考えたりしなければいけないのだ。
そして、分からないことはよく聞いて、自分の疑問を一つ一つ消していくことにより、物事の本質がはっきりと見えてくるものなのだ」

四人の王子は、なるほどと心から感心しました。そして、大切なことを教えてくれた父王に丁寧に礼をして、その場を下がりました。
それからは、各々がよく見、よく聞き、よく考えて学び、修行をするようになり、とてもよい政治をするようになりました。

平成二十七年十月 写経の会(第二十六回目) 法 話

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