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馬 と 騎 士 の お 話 し

馬 と 騎 士 の お 話 し

― 自分を信じる ―

その昔バーラーナシーにおいてブラフマダッタ王が国を統治していたとき、菩薩はシンドゥ産の名馬の血統に生まれ、
綺麗な布や宝石で飾られ、王様専用の馬となっていました。
その当時、周辺の国々の王たちの間では肥沃で恵まれたバーラーナシーの国土を欲しがらない者はいませんでした。
あるとき周辺国の七人の王たちが結託し、バーラーナシーを包囲して、王国を引き渡さなければ侵略するという書状を王様に送りつけました。
王様は大臣たちを召集して事態を説明し、「我々は今どうするべきだろうか」と相談しました。
「王様、最初からご自身で戦いに出るには及びません。まずは騎馬隊を遣わして周囲の要塞を攻撃させるのがよろしいでしょう。
もしそれが成功しなければ、また私達が次の策を考えましょう」と大臣たちは答えました。

王様は騎馬隊の中でも信頼できる屈強な騎士を呼び寄せて、
「そなたは七人の王とその軍勢と戦うことができるか」とたずねました。
「王様、あのシンドゥ産の名馬を頂ければ、七人の王はもちろんのこと、インド全土の王と戦うことができます。」
「よろしい、シンドゥ産の名馬であろうと、他のものであろうと、必要ならば何でも投入して戦ってくれ。」
「かしこまりました王様。」と、騎士は王様に敬礼して宮殿から退出しました。
そして、あのシンドゥ産の名馬を連れてきてもらい、充分に武装させてから自分もあらゆる武具を身につけて剣を持ち、馬の背に跨ると堂々した姿で城門を出ました。

城門を出ると騎士と馬は電光のように駆け回り、一番目の要塞を打ち破って一人目の王を生け捕りにすると、都に戻って味方の軍勢に引渡し、間髪入れずに再び出ていって第二の要塞を打ち破り、
次には第三の…という具合に五人目までの王を捕らえました。ところが六番目の要塞を打ち破って六人目の王を捕らえる時に、馬は負傷してしまいました。
血が流れ、きびしい痛みが馬を襲いました。
騎士はこのままでは馬の生命が危ないことを悟り、六番目の王を見方に引き渡すと馬を王宮の門のところに横たえさせ、武装を外して他の馬に武装を付け始めました。

馬は脇腹を下にして横たわったまま、両眼を見開いて騎士を見つめ考えていました。
「彼は他の馬を武装させているが、あの馬では七番目の要塞を打ち破って七番目の王を捕らえることはできないだろう。
このままでは比類のない勇敢な騎士の生命は失われ、王様も敵の手中に落ちるだろう。
七番目の要塞を打ち破って七番目の王を捕らえることが出来るのは私をおいて他にはあるまい」馬は横たわったまま騎士を呼び寄せて、
「わが友である騎士よ、七番目の要塞を打ち破って七番目の王を捕らえることのできる馬は、私をおいては他におりません。
また、私は自分のなしとげた仕事を無にしたくはありません。どうぞこの私を立たせて武装して下さい」と言いました。

馬の覚悟を受け取った騎士は傷口を縛って充分に手当をし、武装をさせてその背に跨り、ついに七番目の要塞を打ち破って七番目の王を捕えて王様の軍勢に引き渡しました。

大臣たちが馬と騎士を王宮の門の中に案内すると、王様は彼らの勇姿を見ようとして出て来ました。
馬は王様に言いました。
「大王様、捕らえた七人の王たちを殺してはなりません。
誓いを立てさせて釈放して下さい。
私と騎士とに与えられる栄誉は、この騎士だけに授けて下さい。
七人の王を捕らえて引き渡した勇者をないがしろにしてはよくありません。
またあなたは施しをおこない、道徳を守り、公正で平等に王国を治めて下さい」
そう言うと、馬は力尽きてその場で息絶えてしまいました。

王様は馬の葬儀を人間と同様に盛大に行わせ、騎士には多くの栄誉を与え、七人の王たちには今後再び謀反を起こさないことを誓わせそれぞれの国に送り返しました。
そして、正義によって公正で平等に王国を治め、人々が安心して住める国をつくりあげました。

長い人生においては時に窮地に立たされたり絶望の淵に立たされたりすることがあります。
その時に人は、あきらめて他の道に進むか、なんとか踏みとどまって進み続けるか自問自答を繰り返します。
もとの進み続ける道は辛いものですが、自分を信じて進み続ければその先には安心して過ごせる世界が来るものです。
人生は長いものです。
自問自答でなんとかならない事もありますが、その時は信頼できる人に相談して乗り切りましょうね。

平成三十年十二月 写経の会(第六十四回目) 法 話

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