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廷 臣 と 馬 の お 話 し

廷 臣 と 馬 の お 話 し

― 正しく見て正しく教える ―

その昔バーラーナシーにおいてブラフマダッタ王が国を統治していたとき、菩薩は王様に、道理についてよく教示する廷臣でした。

ある日、王様の馬の水浴場で、馬の世話人たちが一頭の未調教の若馬を水浴させようとしました。
しかし、いつも水浴させる場所なのですがこの日ばかりは水浴場に降ろされかけても、嫌がって降りようとしませんでした。

馬の世話人は自分の仕事ができず困り果て、王様に報告しました。
「王様、若馬が水浴場に降りようといたしません。」
王様は菩薩である廷臣に、「賢者よ、どういうわけで、馬が水浴場に降ろされかけても降りないのか、行って見てくるように」と言って遣わしました。
廷臣は、「かしこまりました。王様」と川岸へ行き、始めに馬を調べて病気ではないことを確認しました。
いったいどういうわけで、若馬はこの水浴場に降りないのだろうかと推測していましたが、先にここで他の馬が水浴させられたのに違いない。
それできっと、こいつは嫌がって水浴場におりないのだろうと考え、馬の世話人たちに尋ねました。
「これ、おまえたちは、この水浴場でどの馬を先に水浴させたのか。」

世話人たちは「この馬とは別な若馬です。旦那さま」と答えました。
廷臣は、「この馬は、自尊心が高いから、嫌がってここで水浴しようとしないのだろう。
この水浴場を清めて再び使うより、他の水浴場で水浴させればよい」と言いました。
さらに吉祥馬の意向を知って
「これ、世話人よ、バター油や蜂蜜や糖蜜でこしらえたミルク粥も、繰り返し食べれば、飽きるものだ。
この若馬は、何回もこの水浴場で水浴したので、飽きているのだ。
他の水浴場へ降ろして水浴させ、水を飲ますがよい」と言いました。

彼らは、廷臣に言われた通り、若馬を他の水浴場に降ろし、水を飲ませ、水浴させました。
廷臣は、若馬が水を飲み水浴しているうちに、王様のもとへ戻って行きました。
王様は、「どうだ、馬は水浴し、水を飲んだのか」と尋ねました。
廷臣が「はい、王様」と答えると、「先には、どういうわけで水浴しようとしなかったのか」と理由を問われたので、全ての事情をお話しました。

王様は、「お前は人間のことだけではなく畜生の意向すら知っている。まことに賢者だ」と、廷臣に大きな栄誉を与えました。

私達は日頃、誰かを育てるということをしています。
実際に子供を育てる、後輩を育てるなど、見えるものもあれば、その行動で色んな人に影響を与え、見ず知らずの人に対し、人生を教えている部分も少なくありません。
例えば道端に落ちているゴミを拾う行為。その姿に感銘を覚え、もうポイ捨てはやめようと決心する、見ず知らずの人もいることでしょう。
しかしながら人の性格や能力というものは千差万別で、いくら教えても覚えてくれないことも多いものですが、それは教え方が間違えているのです。
欲深い人を向上心の強い人と勘違いしたり、やる気のない人を無欲な人と勘違いしたり等、色々あるものです。
廷臣のように、どうすれば動いてくれるのか、覚えてくれるのかを考えるのが必要なのでしょうね。

平成三十年七月 写経の会(第五十九回目) 法 話

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