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金 色 の 羽 の 白 鳥 の お 話 し

金 色 の 羽 の 白 鳥 の お 話 し

― ほんとうに大切なもの ―

昔、ブラフマダッタ王がバーラーナシーの都で国を治めていたころのお話しです。
ひとりの菩薩があるバラモンの家に生まれました。
やがて妻をむかえ三人の娘が産まれ一家はとても幸せでした。
しかし、一番下のスンダリナンダがやっと歩けるようになる頃、彼は妻子を残してあの世へ行ってしまったのです。
残された親子は親戚の家の手伝いなどをしながら細々と暮らしておりました。

一方、亡くなったバラモンはこの世に残した家族に対しての思いが強かった為、金色の白鳥となってこの世に生まれかわってきました。
「いっしょに暮らしていた妻子はいまどうしているだろう」

彼は金色に輝く羽を広げてこの世を飛び回り、やっと親子四人の居場所を探し当てました。
そしてその家族の姿を見て心が痛みました。
「子どもたちのあの姿、なんというやつれようだ。」
お金のことで言い争う以外はあまり口もきかない妻の姿や、娘たちの暮らしぶりを見て彼の心は刺すように痛みました。
「そうだ、私の金の羽は叩き伸ばせばどんな細工にも使える。これで指輪や首飾りをつくればいい値に売れるだろう。」

彼は月明かりの窓にふわりと降り立ち、妻と娘たちを呼びました。
言葉を話す白鳥に、皆目を丸くするばかりでした。
「信じられないだろうが私はお前たちのお父さんだよ。お前たちを助けたくて生まれ変わってきたんだよ。」
「あなたが死んだおとうさんなの?」
二番目のナンダバティが近寄ってたずねました。
「そうだよ。さあ、私の金の羽を一枚ずつあげよう、これで何かを作ってお金に換えなさい。できあがったころにまた来るからね」
金色の白鳥は四枚の金の羽を与えてどこか飛んでいきました。

娘たちはそれで指輪やスプーンなどを作って街まで出て売りました。
しかし、母親は羽をそのまま安く売ってしまいました。
金色の白鳥は月に一度だけ窓辺に降りて金の羽をおいていき、それとともに親子の暮らしはどんどん良くなっていきました。

そんなある日、母親は娘たちに言いました。
「ねえ、どうだろう、一枚ずつもらっていたんじゃじれったくてしょうがない。
第一、男なんていつ気が変わるか知れやしない。この次にきたときにはみんで押さえつけて金の羽を全部むしってしまおう。
私たちはいっぺんに大金持ちになれるよ」

「だめよお母さん、お父さんがかわいそうじゃないの。」
長女のナンダが大声を上げました。
「おだまり!あれはどこか知らない所に行って同じように羽をやっているかもしれないんだよ。
そうなれば私たちの取り分が少なくなるじゃないか。」
そう言い、母親は窓に罠を仕掛けました。
何も知らない金色の白鳥はその罠にかかり、妻によってあっという間に羽を全てむしられてしまいました。

しかし、むしりとった金の羽は見る間にすべて灰色のガチョウの羽に変わってしまいました。

「ちくしょう!」という悔しさに溢れた妻の金切り声が何度も叫ばれ、娘たちは涙を流し、金色の白鳥のむざんな姿を哀れんで大声で泣きました。
その後、金色の白鳥はもう二度と家族の前に姿を表すことは無かったということです。

私たちはいつも身近に溢れている有り難いもの、ある事こそが難しいものを忘れてしまうことがあります。
毎日ありふれた日常、大切な人が目の前にいて、大切な身体がここにある。
ありがとうという言葉、ごめんなさいという言葉。もっともっと有り難いものはたくさんありますね。
それらの大切さを忘れてしまった時、人はこの妻のような心になってしまうのです。
本当に大切なものを一年の終わりに思い出してみてはいかがでしょう。
きっと幸せな思いで最後を締めくくることができると思いますよ。

平成二十九年十二月 写経の会(第五十二回目) 法 話

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