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象 を 倒 し た ウ ズ ラ の お 話 し

象 を 倒 し た ウ ズ ラ の お 話 し

― 人の気持ちに気付く ―

昔、バーラーナシーの都でブラフマダッタ王が国を治めていた頃、菩薩は象の群れの中で生まれて、その王となりました。
どの象よりも体が大きくそして心は優しく、八万頭の仲間を引き連れヒマラヤの高原を駆け巡っていました。

その高原には一羽のウズラが住んでいましたが、あやまって象の群れが定期的に通る道端に卵を産んでしまいました。
卵は孵ってかわいい雛が生まれましたがまだ飛べません。

そこへ王様を先頭に象の群れがやってきました。
親鳥は驚いて飛びはね、先頭にいる象のもとへ飛んでいきました。
「象の王様、王様。そのように急がないでくださいまし。この先に私どもの巣がございます。
そこにはまだ飛ぶことのできない私の子供がおります。どうぞ気をつけてやってください。」

象の王様は優しいまなざしでウズラを見ながら、
「そうか。それは良く知らせてくれた。万が一のことがあってはいけない。
私の一族が通り過ぎるまで、巣の前に立って守ってあげよう」と言いました。
八万頭の象は列を作ってゆっくりとウズラの巣の前を通りました。
ウズラは感謝の言葉をのべ、象たちに幸せをお祈りしました。

「ところでウズラさん、この後からもう一頭、このあたりで悪さばかりする『はぐれ野郎』と呼んでいる象がくるかもしれません。
怖いとは思いますが、そのものにも良く頼んで子どもを守ってやりなさい。」
ウズラは両の羽根を合わせ、合掌しました。

数時間後、やさしい象の王様の言ったとおり、はぐれ野郎が現れました。
「象さん、はぐれの象さん。この先に私の子どもがいます、どうか踏みつけないようにお願いします。」
するとはぐれ野郎は、
「なーにぃ。子どもに気をつけろだと。へっ、弱いものはなにをされても黙っているもんだ。それが自然の習いってもんだ。」
そう睨みつけて、ウズラの雛を踏み潰して去ってしまいました。
ウズラは高原に響き渡るほどの大声で泣きました。

その悲痛な声を聞きつけ、友達のカラスとハエとヒキガエルがやってきました。
仲間の慰めと励ましの言葉にウズラは涙を払って
「あいつを生かしておいてはこの先も次々と私たち弱いものを踏み潰していくでしょう。
私は闘いを挑みたいと思います。ぜひみんなの力であいつを倒しましょう。協力してもらえますか?」と問いました。
友達は快く引き受けてくれました。

「ではカラスさん。あなたはあいつの目をそのくちばしで潰してください。」
「いいとも。ちょっとおそろしいけどみんなの為だ。」カラスは真剣な顔で答えました。
「ハエさんはあいつのつぶれた目に卵を産みつけてちょうだい、早くウジがわくようにね」
「そんなの簡単さ、まかせてよ。」ハエは明るい声で答えました。
「それでボクは?」カエルはおどおどしながら聞きました。
「カエルさんはあの崖っぷちで鳴いてほしいの。目の見えなくなったあいつはきっと水をほしがって崖が湖かと思ってやってくるじゃない?」
「わかった、奴が崖っぷちに来たら今度は谷底で鳴くんだね」

すべては計画通り進みました。
最終的に目の痛みに耐えかねたはぐれ象は水を求めてカエルの声を頼りに崖っぷちに誘われ、谷底に転がり落ちて息絶えました。
はぐれ野郎のいなくなった高原は、いつも穏やかな空気でつつまれ、強者も弱者もいない安心して暮らせる場所になったとのことです

この物語は決して復讐を奨励しているものではありません。
世の中には強者と弱者と呼ばれている者がおります。
お金持ちであったり権力をもっていたりしても、弱者の気持ちが解らなければいずれ自分の生命までも危うくなるのですよと説かれているのです。
私たちは日々の生活の中で調子がいい時、慢心をして気がつかないうちに人を傷つけてしまうことがあります。
いつも弱い立場の人がいることを頭に中においておきたいものですね。

平成二十九年十一月 写経の会(第五十一回目) 法 話

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