お知らせ

カ モ シ カ と キ ツ ツ キ と 亀 の お 話 し

カ モ シ カと キ ツ ツ キ と 亀 の お 話 し

― 感謝の気持ち ―

その昔、バーラーナシーの都でブラフマダッタ王が国を治めていたころ、菩薩はカモシカに生まれ変わって森の湖の畔に住んでいました。
森の中の椎の大木には一羽のキツツキが巣をつくり、湖には亀がいてこの三匹は仲のいい友達でありました。

ある日猟師が森にやってきて湖の岸でカモシカの足跡を見つけました。
「そうか、ここへ水を飲みに来るカモシカかがいるんだ、こいつを生け捕りにしたらきっと大もうけができるぞ」
猟師は念入りに罠をしかけ、自分の足跡を消して帰りました。

翌朝、湖の朝もやが融けていくころ、ねぐらを出たカモシカがいつものように岸辺を歩いていると、後足の砂がじりじりとめり込み始めました。
おやっと思った瞬間、バチンという大きな音とともに足首が激痛がはしりました。
カモシカはたまらず悲鳴を上げました。
まだ寝ていたキツツキはその悲鳴に驚き、飛び起きて飛んできました。
湖の中からは亀が心配そうに浮き上がってきました。
「どうしたんだいカモシカ君。あ、罠だ。足をやられたんだ。亀君、君の歯で食い込んでいる皮ひもを千切れないかい」とキツツキが言いました。
「よし、やってみよう。」

ところがカモシカは、
「君たちの気持ちはうれしいけど、もうすぐ猟師が来るに違いない。そしたら君たちまで捕まってしまう。僕に構わず逃げてください。」
「なにを言うんだカモシカ君。こんなときこそ力をあわせなきゃ。僕は猟師の家に行って奴が来るのを少しでも遅らせるからね。」
そう言うとキツツキは飛び立ちました。
キツツキは猟師の家につくと窓を破り、屋根の周りをうるさく飛び回りました。
猟師は
「いやな鳥だなあ。なにか不吉なことが起こりそうだ。出かけるのは昼からにしよう」と心の中でつぶやき、寝床にもぐりこみました。
一方亀は懸命に皮ひもを切る為に噛み、歯はもうぼろぼろに欠け、口は血だらけになっても続けました。

そして陽はすでにてっぺんまで昇り、正午を過ぎたころ。
「おーい、猟師が来るぞ」
大きな声とともに、キツツキは矢のような速さで飛んできました。
カモシカを捕らえている皮ひもも、やっと千切れそうなくらいになりました。
「キツツキ君、亀君、ありがとう、こんなに細くなったんだから力いっぱい引っ張ってみるよ」
カモシカが足にぐっと力を入れ、皮ひもがプツンと音を立てて切れたとき、猟師が岸辺に姿を現しました。
カモシカは一直線に森へ逃げました。

ところが力尽きた亀は湖の中にもぐることが出来ずに逃げ遅れてしまい、捕らえられてしまいました
「チェッ。せっかく罠にかけたのに。まあこの亀一匹でも手ぶらよりはましだ。」
猟師は疲れきってうずくまっている亀の体を縄でつるし、担ぎました。
遠くから見ていたキツツキは、すぐにカモシカに知らせました。
「せっかく僕を助けてくれたのに・・・。今度は僕の出番だ。」

猟師が亀をかついで森の中から出ようと歩いていたところ、カモシカは猟師の目の前に、いかにも傷ついて倒れそうな姿で現れました。
猟師はしめしめと亀を放り出し、投げ縄をもってカモシカを追いました。
その間にキツツキは亀の縄をほどき、亀は湖にもぐりこむことができました。
そしてキツツキの合図によって、カモシカは森の奥深く姿を消してしまいました。

それから三匹は猟師の罠に気をつけるようになり、いつも互いに感謝の気持ちを込め力を合わせて逃げたため、
猟師はカモシカの事はあきらめて、他の森で猟をするようになったとの事です。

私たちは誰かに何かをしてもらった時に、やってもらって当たり前という気持ちになることがあります。
ひどい時はそれすら考えない事も多いものです。
親だから育ててくれて当たり前、旦那さんだから、奥さんだからやってくれて当たり前、親友だから心配してくれて当たり前。
世の中当たり前の事なんて何も無いのです。
ありがとう、有り難う、それはある事が難しいくらいの言葉です。
無条件で私たちに何かをしてくれる人に、感謝の心を持ち続けることが大切なのです。
お互いに感謝の気持ちを持ち続けられれば、この世からつまらない争いはなくなることでしょう。
そしてそれが全ての幸せに繋がることでしょうね。

平成二十九年十月 写経の会(第五十回目) 法 話

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