天 の 法 の お 話 し
― 世界に必要な教え ―
昔々、バーラーナシーでブラフマダッタ王が国を治めていた頃、
菩薩は王子として生まれ、マヒンサーサ王子と名づけられました。
その何年後かに弟のチャンダ王子が生まれ、チャンダ王子が走り回る頃になると、
二人の母である王妃は亡くなりました。
そこで新しい王妃が宮殿にきました。
しばらく経つと、その王妃に息子が生まれ、スリヤ王子と名づけられました。
王はスリヤ王子の誕生を喜び、新しい王妃に「何でもおまえの好きなものを与えよう」と言いました。
王妃は贈り物を受ける権利をいったん保留しました。
そして自分が産んだスリヤ王子が大きくなると
「あの贈り物のお約束を今お願いいたします。スリヤ王子に王位を授けてください」と王に願い出ました。
王は長男に王位を譲ろうとしていたので断りましたが王妃はあきらめず、何度も頼みました。
心配した王は上の二人の王子を呼んで、
「お前たち、私はスリヤが生まれた時、王妃に望みのものをやると約束した。
スリヤの母は、今実の子の王位を求めている。私はそのような頼みを聞くつもりはない。
人は思い詰めると何をするかわからない。お前たちに悪事をたくらむかもしれない。
お前たちは森に隠れ住み、私の死後に出てきて王位を継いでおくれ」と、涙を浮かべて言いました。
王子たちは父王に礼をして、すぐに城を出ることにしました。
ちょうど庭で遊んでいたスリヤ王子はその話を聞きつけ、
「僕も兄さんたちと一緒に行く」と、二人の兄と共にお城を出ました。
三人はヒマラヤ山に入りました。
菩薩であるマヒンサーサ王子は、下の方にある湖を見て、
「スリヤ王子、あの湖で遊んでから皆に水を汲んできておくれ」と言いました。
スリヤ王子は喜んで湖に降りていきました。
ところが、その湖は羅刹のなわばりでした。
羅刹は毘沙門天から「水に入った者は、天の法を知る者以外、自由に食べてもかまわない」という許可を与えられていました。
羅刹は水に入った者に天の法を問い、答えられないことを確かめてから、食べていました。
何も知らないスリヤ王子が湖に入ると羅刹が出てきて「お前は天の法を知っているか」と聞きました。
スリヤ王子が答えられないでいると王子を捕まえ、自分の住処に連れて行きました。
スリヤ王子の帰りが遅いので、菩薩はチャンダ王子を見に行かせました。
チャンダ王子が湖に行くと羅刹が出てきて、チャンダ王子に、「お前は天の法を知っているのか」と尋ねました。
チャンダ王子が答えられないでいるとチャンダ王子も捕らえて、自分の住処に連れて行ってしまいました。
菩薩はチャンダ王子もなかなか帰ってこないので、自ら様子を見に来ました。
湖の岸に着くと、やはり羅刹が現れて「お前は天の法を知っているのか」と尋ねました
菩薩は二人の王子がこの問いに答えられなかった事が即座に解りました。
「あなたは天の法を知りたいのですか。私はそれを知っています。私が天の法を教えましょう。
そのかわり二人の弟を助けて下さい。」
「教えてくれれば返してやろう。俺はそれが聞きたいだけなのだ。」
そのような会話を交わしてから、菩薩は言いました。
「慚愧(ざんき)の心をそなえ、清らかな法に励み、寂静(じゃくじょう)に住む善き人こそ天の法を知る者です。
あなたは寂静なこの場所にいて慚愧の心をもって正しい行いをするならば、あなたも天の法を知るものです。」
羅刹はこれを聞いて清らかな喜びの心を起こし、二人の弟を返しました。
それから羅刹は菩薩に仕えることにし、彼らと共に森で暮らしました。
ある夜、星の動きを見て父王の死を知った菩薩は、弟たちと羅刹を連れてバーラーナシーにもどりました。
菩薩は王位を継ぎ、チャンダ王子を副王に、スリヤ王子を大将軍にし、羅刹には景色の良い場所に住居を与えました。
羅刹の住居は最上の花で飾られ、毎日最上の食事が与えられました。
王となった菩薩は正義に則った政治を行い二人の弟とともに国の発展と国民の安心のために力をつくしました。
ここには私達の生活の中で大切な姿勢が記されています。
【慚】 自らの悪の行為を恥じ
【愧】 罪に恐れの気持ちをいだき
【善行】 善い事につとめ
【寂静】 落ち着いて考え行動する
私たちの住む世界が幸福な世界になるためにはこの四つの心が不可欠でありましょう。
またこの四つが備わっているのなら、これ以上ないものだと思えます。
これがまさしく【天の法】なのですね。
平成二十九年九月 写経の会(第四十九回目) 法 話