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ウズラと猟師のお話し 第44回写経の会の法話

ウ ズ ラ と 猟 師 の お 話 し

― 仲良くすることの大切さ ―

その昔バーラーナシーにおいてブラフマダッタ王が国を統治していたとき、
菩薩は、何千羽ものウズラを従えるウズラのリーダーとして、森に住んでいました。
時を同じくして一人の猟師がいました。
猟師は彼らの住んでいる森へ行ってはウズラの鳴きまねをして彼らを誘い出し、
集まったところで一まとめにして捕まえ、そのウズラを売り生活を営んでいました。

ある日のこと、ウズラのリーダーは、群れのウズラたちに言いました。
「あの猟師は、私達を破滅に陥れている。
しかし私はあの男に捕らえられないようにする方法を考えついた。
これからは、あの男が君たちの上に網を投げたら、すぐに一番近い網の目に頭を入れて、
網を持ち上げ一斉に飛びあがり、網をイバラの茂みに投げかければいい。
そうすれば、下を通ってそれぞれの場所から逃げ出せるだろう。」
その方法を聞いて喜んだウズラ達はみな、
「みんな頑張ろう」と答えました。

次の日また猟師が来ました。
猟師が手馴れた方法で網を投げると、ウズラ達はリーダーに言われた方法の通りに網を持ち上げ、
そしてイバラの茂みに投げかけて、下の方を通って逃げ出しました。
猟師は、イバラのトゲから網をはずしているうちに夜遅くなってしまい、仕方なく手ぶらで帰りました。
その翌日からも、ウズラたちはその方法を続け、猟師は毎回日が暮れるまで網をはずすことばかりで、
しばらくは何も得られないまま帰宅しました。

そんな事が何日か続くと、猟師の妻は腹を立てて、
「あんたは毎日手ぶらで戻って来るけれど、
きっと他のところにも、養わねばならない者がいるのでしょうね」
とあてつけがましく言いました。
猟師は、
「他に養わねばならない者などあるものか。
あのウズラどもが、結束して行動するんだ。おれが網を投げると、
すぐそれを持ってイバラの茂みに投げかけて行ってしまう。
だがあいつらが、ずっと和合して暮らすことはきっとないだろう。
心配することはない。いつかきっとあいつらは争いを起こすだろう。
そのとき、あいつらを全部捕まえて来て、おまえを喜ばせてやるよ」
と言いました。

数日後、一羽のウズラが餌場に降りようとして、うっかり他の者の頭を踏んでしまいました。
踏まれた相手は、
「わざとやったな」と腹を立てて言いました。
ウズラは
「わざとじゃないんだからあまり怒るなよ」と謝りました。
しかし踏まれたほうの気持ちは治まりません。
さらに怒りの言葉を浴びせました。
謝ったら許してくれるのは当たり前だかと思った頭を踏んだほうのウズラは
その言葉に怒ってしまいました。
二羽のウズラは
「頭を踏んだおまえが悪い」
「いや、素直に謝っても許してくれないおまえの方がもっと悪い」
と、とうとう喧嘩を始めてしまいました。
悲しい事に、この二羽の喧嘩の火種は周りの鳥たちにも飛び火して、
群れの鳥たちを二分した大きな争いに発展してしまいました。

鳥たちが言いあいをしているうちに、
「へえっ、おまえたちだけで網を持ち上げているというような口ぶりだな」
という言葉が発せられました。
少し離れた所でこの言葉を聞いたリーダーのウズラは考えました。
(言い争いをする者に安全はない。今に彼らは網を持ち上げなくなり、
最後には猟師に捕獲の機会を与えてしまうだろう・・・)と。

リーダーのウズラは、
「この森はもう危ない。他の森に移るからみんな着いてくるのだ」
とを大きな声を出しました。
そしてその声を聞きとげたウズラと、最初から喧嘩に参加しないで落ち着いているウズラ達を連れて、
遠い森へ去って行きました。

数日後、また猟師がやって来ました。
いつものようにウズラの鳴きまねをし、ウズラ達が集まって来たところに、網を投げました。
すると、一羽のウズラが、
「おまえが網を持ち上げる時には、勢いで頭の毛が落ちるそうだな。さあ持ち上げてみろ」
と罵りました。
そう言われたウズラは、
「おまえが網を持ち上げるときには力が無くて両の翼の羽根が折れてしまうんじゃないか。
さあ持ち上げてみろ」と言い返しました。
こうして、彼らが、
「おまえが持ち上げてみろ」
と言い合っているうちに、猟師が網を持ち上げ、彼らをみな一まとめにして籠につめ込んでしまいました。

失敗をしたり、間違い等、過ちを起こす事は無い方がいいとは言え、誰にでもある事です。
それが人間です。
過ちを犯した時に素直に謝ることは、人間社会の和合を保つために必要な大切な事です。
更に大切なのは、謝られた側がその過ちを許し、仲直りをするという事です。
社会の和合を壊すのは、過ちを犯す人だと簡単に思いがちですが、
小さな過ちを謝られた時に許してあげないことは、和合を壊す重大な原因となります。
許してあげない事によって、被害者と加害者の間で立場が入れ替わることも多々あります。
間違いは誰にでもある。そんな思いで仲良くしているならば、乗り越えられない問題はどこにも無いでしょうね。

平成二十九年四月 写経の会(第四十四回目) 法 話

写経 法話 イベント 千葉市 日蓮宗