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修行者と隊商のお話し 第41回写経の会の法話

修 行 者 と 隊 商 の お 話 し

― 自分を律する ―

昔々、バーラーナシーという国で、菩薩はバラモンの家に生まれました。
彼は成人に達したとき、欲望にこそ全ての苦しみや患いの原因があることを知って、出家しました。
普段はヒマラヤの山の中で修行しておりましたが、食べ物が必要になると、たまに街に降りて托鉢していました。

ある日街で托鉢しているところ、大人数の隊商に偶然出会い、これも縁だと思い、一緒に旅をすることにしました。
旅の途中、所々で隊商はキャンプを張ります。この日、隊商は森のとある場所で一夜を明かすことになりました。
夜皆が寝ている間、彼は隊商の人達から遠くない場所で、歩きながら瞑想をする修業をしていました。

それを木陰から見ていた盗賊たちがおりました。
「あの荷物を全部盗んでしまおう。しかしあの見張りの修行者は邪魔だな。
もしもあいつが我々を見つけたら隊商の人々を起こすだろう。
人数は向こうの方が多いからこっちもただじゃすまなそうだ。
ここは用心してあいつが眠りについたら襲撃をかけよう」と、様子をうかがうことにしました。

しかし修行者は一晩中歩きながら瞑想を続けたので盗賊たちは機会を失ってしまいました。
朝になり、それぞれ手に握り締めていた石や棍棒を投げつけながら、隊商に向かって
「皆の者よ。もしも今日、うっとおしい修行者が見張りをしていなかったら全ての物が略奪されていたであろう。
おまえたちは、この修行者を大いに敬わなければならんぞ。」
と、悔し紛れに叫んで立ち去って行きました。

その声を聞いた隊商の人々は、恐る恐る声のした方に行き、盗賊たちが捨てていった石や棍棒などを見つけて驚き、
身震いをしながら修行者に近づき礼拝してたずねました。

「修行者よ、あなたは盗賊がいたことを知っていたのですか。」
「ええ、気がついておりましたよ。」
「修行者よ、あなたはこれらの盗賊たちを恐れたり怯えたりはなさらなかったのですか?」
「友よ、財産を所有している者は盗賊を見ると恐れを抱きます。
しかし、私には財産というものが一切ありません。私には恐れたり、怯えたりする必要がないのです。
村に居ても森に居ても、どこにいても私には恐れるものも怯えることもありません」
と言って、彼らのために、欲望によって全ての患いが起こるという事を説きました。

隊商の人達は感嘆し、改めて修行者に深くお礼をしました。

修行者は隊商から別れた後も、生きている間はたくさんの人々にこの法を説き、
崇高な境地である慈・悲・喜・捨の四無量心を修習して、梵天の世界に生まれました。

世の中は当事者じゃない方がそのことをよく見えたりもします。
その時自分で出来ないのに「ああしなさい、こうしなさい」と言っても
忠告する側が信頼に値する人でなければ誰もその言葉に耳を貸しません。
それどころか自分中心になって、結果的に悪い方向に進む事も多いものです。
良くも悪くも自分の考え方、心のあり方で周りの人も変わっていくのです。
自分を律することによって、周りの人を守っていくことが出来るようになるのです。

平成二十九年一月 写経の会(第四十一回目) 法 話
千葉市 写経 写仏 日蓮宗 イベント