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ライオントトラのお話し 第40回写経の会の法話

ラ イ オ ン と ト ラ の お 話 し

― わがままの代償 ―

昔々、バーラーナシーでブラフマダッタ王が国を治めていた頃、菩薩はある森の、賢い樹の神でした。
同じ森で、菩薩の樹からそれほど遠くないところにある大木に、もう一人の樹の神がいました。
その樹の神は愚か者で、世の中の道理がわかりませんでした。

森には、二匹のライオンとトラが住んでいました。
その恐ろしいライオンやトラを怖れた町の人々は身の危険を感じ、決して森に寄りつこうとはしませんでした。
ライオンやトラはおなかが空くと獣を食べ、満腹になると死骸を残して放っておきました。
残された死骸を小さな動物や鳥たちが食べましたが全てを食べきれるものではありません。骨だけは残りました。そのため、その森には怖い死の匂いがただよっていました。

ある日、愚かな樹の神が、賢い樹の神に、
「我々の森は、ライオンやトラのために、汚れた死の匂いに満ちている。私はあいつらを追い払おうと思う」と言いました。
賢い樹の神は
「この森は彼らのおかげで護られている。ライオンやトラがいなくなったら人間たちが来て、
あっという間に多くの樹を伐り払い、畑を作ったり村を作ったりするに違いない。そうなったら君も困るだろう」と言いました。
しかし愚かな樹の神は、よく理解できませんでした。

数日たち、我慢できなくなった愚かな樹の神はとうとうライオンとトラを追い出そうと、恐ろしい様相でライオンとトラを脅しました。
さすがのライオンたちも、愚かとは言え神の力を持つ樹の神には勝てませんでした。
ライオンとトラ、そして小さな動物や鳥たちがいなくなると、だんだんと森の様子は変わり、身の危険を感じるような気配は消えていきました。
それに気付いた人間達は、始めは森の入り口、そしてだんだんと奥の方に入り込んでいきました。
そしてとうとう森を壊し始めました。

その様子に困り果てた愚かな樹の神は賢い樹の神のところにやってきて、
「君の言う通りだった。ライオンとトラがいなくなると、人間どもが森を荒らしに来てたいへんなことになってしまった。いったいどうすればいいだろう」と言いました。賢い樹の神は
「ライオンとトラたちは向こうの森に移ったようだ。あちらに行って、彼らを連れ戻すのが良いだろう」と答えました。
愚かな樹の神はその森に行き、合掌して懇願しました。
「ライオンよ、トラよ、どうか私達の森に帰ってきておくれ。人間達によって、あなたたちの住処は荒らされているのだ」
しかしライオンとトラは「あそこはもう俺たちの住処ではない。帰る道理がない」と断りました。
愚かな樹の神は、すごすごと一人で森に帰るしかありませんでした。

人間たちは好きなように森を切り開き、畑を作りはじめ、最後には愚かな神の樹までも倒してしまいました。

私達は自分の都合だけで何かを排除してしまうことがあります。
この森を切り開けば道路ができて、もっと便利になる。
この川が無ければたくさんの家を建てることができる。
身の回りにはたくさんありますね。
ただ、その代償は静かに進行し、そして大きくなることが常です。
木陰で安らぎ、虫取りをして遊ぶ事が無くなったのはいつ頃からでしょう。
飲み水を当たり前のように買うようになったのは、いつ頃からでしょうね。

平成二十八年十二月 写経の会(第四十回目) 法 話
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