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王様と鳩のお話し 第37回写経の会の法話

王 と 鳩 の お 話 し

― いのちの重さ ―

その昔、シビ王という、心優しい高徳な王様がいました。
彼の王国はとても豊かで、他の国からもうらやましがられるほどでした。
その王国の様子を見ていた雷神インドラと火神アグニは、彼がどれだけの人物なのか試すことにしました。
そしてインドラは鷲に変身し、鳩に変身したアグニを追いかけました。
鳩に変身したアグニは命からがらに逃げてきたふりをして「助けてください」と、庭を散歩していたシビ王の懐に逃げ込みました。

鷲は王様のもとに飛んできて言いました。
「諸王はあなたのことを、法を本性とするものと言っている。なぜ法に背くことをするのか?」
王様は鷲に言いました。
「この鳩は助けを求めて来たのだ。この鳩を守らねば、非法となるだろう。この鳩は震え、救いを求めて私のもとに来た。助けなければ私は非難されるだろう。」
鷲は言いました。
「すべての生き物は食べ物によって生きている。人は財物を失っても生きるが、食事を捨てたら生きられない。食べ物を奪われたら俺は死ぬ。俺が死ぬと息子や妻も死ぬだろう。あなたがこの鳩を保護すれば多くの生命を殺すことになる。それは法ではなく悪法だ。何ものをも妨げることなき法が真の法だ。」
王様は言いました。
「お前は法をよくわきまえている。しかし助けを求めてきたものを捨てることは正しいだろうか。お前の目的は食べ物を得ることだが、他の方法によっても、もっと多くの食べ物を得ることができる。牛や猪や鹿や水牛、何でもお前のために用意してやろう。」
鷲は言いました。
「俺は猪や鹿や水牛なぞ食わぬ。俺のために鳩を放せ。鷲は鳩を食うものなのだ。もしお前が道理を知っているなら、それに背いてはならない」
王様は言いました。
「お前が望むなら、この王国を統治してもよい。お前の望むものは何でもやろう。しかし庇護を求めて来たこの鳩をやるわけにはいかぬ。私にできることがあったら言ってくれ。」
鷲は言いました。
「そんなに鳩が愛しいなら、自分の肉を切って、秤にかけて鳩と同じ重さの肉を俺にくれ。俺はそれで満足する。」
王様は言いました。
「ならば今すぐ自分の肉を秤にかけてお前にやる。」

そう言うと王様は、まず自分の太ももの肉を切って、鳩とともに秤にのせました。
しかし秤はまるでつり合いません。わき腹や腕、王様は自分の肉をさらに切り続けましたが、まだまだ秤はつり合いません。
もう切り取る肉が無くなると、「ならば私の全てを秤に乗せる」と、自ら秤に乗りました。
するとさっきまでつり合わなかった秤がピタリとつり合いました。

そこで鷲は言いました。「私はインドラで鳩はアグニだ。
我々は今日、法に関して汝を試すためにやって来たのだ。自分の身体から肉を切り取るとはすばらしい。
この世で汝の名声は永遠に存続するだろう」
そう言い、肉がそげて血だらけになったシビ王の身体をもとの状態にもどしてあげました。
シビ王の王国は、王様の優しい政治により、益々繁栄したということです。

インドラの言葉のとおり、この物語は現代まで語り継がれております。
この物語は生命の尊さをあらわしております。
一つの生命を救うのに、別の一つの生命を無駄に奪う事があっては意味がありません。
人に優しくしてあげるために、一方で誰かを犠牲にするのは本当の優しさではありません。
この世に生けるものの生命は全て等しく、かけがえのないものです。
この物語は、私達は生命を維持するのに、誰かの生命をいただいているという事を示しております。
だからこそ、その生命の分まで懸命に生きなければいけないのだということをお話ししているのです。

千葉市 日蓮宗 写経 写仏 法話

平成二十八年九月 写経の会(第三十七回目) 法 話