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白髪のお話し 第36回写経の会の法話

こんにちは、残暑が厳しい毎日ですが秋の気配もいたるところで見受けられますね。
もうすぐ日中も過ごしやすくなることでしょう。
写経の会も、ついにまる3年を向かえ、その輪がどんどん広がっているのを確かに感じます。

こちらは慈悲の心と人の縁を、千葉市から伝え広めるお寺 日蓮宗 本円寺のブログです。
今回は第36回 写経の会にてお話しした【白髪のお話し】についてお書きします。

白 髪 の お 話 し

― 大切な事を知らせてくれるもの ―

その昔、ヴィデーハ王国のミティラーの都に、マカーデーヴァという王様がいましたが、彼は理法にかなった正義の王でした。
彼は八万四千年の間、王子としてふるまい、次の八万四千年は副王として国を治め、また次には大王として統治して長い年月を過ごしてきましたが、
ある日理髪師に向かって、「なぁ理髪師よ、もしも私の頭に白髪を見つけたらそのときは私に知らせてくれ」と言いました。

理髪師も、ともに長い年月を過ごしてきましたが、ある日王様の黒々とした髪の中に一本の白髪を見つけました。
そして、「王様、一本の白髪が見えます」と告げました。
「ではお前、その白髪を引き抜いて、私の手の上に置いてくれ」と言われましたので、
理髪師は黄金の毛抜きでそれを引き抜いて、王様の手の上に置きました。

そのとき王様にはまだ八万四千年の寿命が残っていましたが、白髪を見ただけで、死の王が近づいて来て側に立っているような、
また自分が燃えさかる草庵に迷い込んだような心地がして急に恐怖に陥り、
「愚かなマカーデーヴァよ、白髪が生えるまで、この煩悩を断とうとすることをしなかったとは」と考えました。
彼がこのように、白髪が生えたことについて考え抜いているうちに、その体内には熱が生じ、体からは汗が流れ、
衣服はべったりと体にまとわりついて脱がずにはいられない状態になってしまいました。

王様は、「今こそ私は、世俗的なことから離れて、出家するべきだ」と考え、理髪師に十万金の収益を得られる良い村を与えました。
そして長男である王子を呼び寄せ、「私の頭には白髪が生えた。私は年老いた。それに、人間的な快楽は今まで全て享受してしまった。
今となっては天上の楽しみを求めようと思う。今は私が世俗から離脱する絶好の機会なのだ。お前はこの王位を引き継ぎなさい。
私は出家してマカーデーヴァ・マンゴー樹林の遊園に住んで修行者の道を実践しようと思う」と言いました。
彼がこのように出家の決意を固めていると、大臣たちがやって来て、「王様、あなたさまが出家なさる理由は何なのですか」と尋ねました。
王様は白髪を手に取って、大臣たちに向かい、言いました。

寿命を蝕むこの白髪が
私の頭に生じた
天使が現れた

王様はこのように言うと、その日のうちに王位を退き、出家して仙人となり、マカーデーヴァ・マンゴー樹林の遊園に住んで、
八万四千年の間、崇高な境地である、慈・悲・喜・捨の四無量心を修習して、退くことのない禅定に入りました。
死後は梵天界に生まれてから、さらにそこから転生して、同じミティラーの都でニミという王様となり、衰退していた自分の一族を再興した後、
同じマンゴー樹林の遊園に出家して住み、「四無量心」を修習して再び梵天界に達しました。

マカーデーヴァ王は自分の一本の白髪を天使として俗世間から離れて出家することを決めました。
さて、天使とは誰でしょう。
それは老いる事、病気になること、死ぬ事、出家する事を教えてくれる人の事です。
人は欲に溺れて生きております。その前では善悪の判断も、道徳も、倫理も敵いません。
欲に溺れれば溺れるほど苦しみが増える事に気付かずにおります。
世俗の欲を追い求めても、必ず老、病、死は目の前に現れます。
マカーデーヴァ王にとっての天使は白髪一本でした。
人生は良いことばかりではありません。
どちらかというと、悪い事の方が多いかもしれません。
皆様にとっての天使はどんなものでしょうね。

平成二十八年八月 写経の会(第三十六回目) 法 話

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