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無常のお話しー生と死を見つめるー 第34回 写経の会の法話

無常のお話し ー生と死を見つめるー 第34回 写経の会の法話

こんにちは、すっかり梅雨らしく、蒸し暑い日が続きますね。
体調管理に気をつけて下さい。

こちらは慈悲の心と人の縁を、千葉市から伝え広めるお寺 日蓮宗 本円寺のブログです。
今回は第34回 写経の会にてお話しした【無常のお話し】についてお書きします。

無 常 の お 話 し

― 生と死を見つめる ―

昔々、バーラーナシーの村に農業を営んでいる農夫がいました。
農夫には息子と娘と息子の嫁がおり、それぞれ仲良く暮らしていました。
農夫は、「お前たちは、それぞれ自分のできる範囲で施しを行いなさい。行いを正しくし、懺悔するのだよ。
そして死を随観し、自分たちもいずれ死ぬことを観じなさい。死は確かなものだが、生は不確かなものだ。
すべてのものは無常であって滅ぶ性質のものだ。それを、夜も昼も忘れないように、努め励みなさい」と皆に教えました。
家族の者は「お父さん、よくわかりました」と農夫の言葉を受け入れて、死についてよく考えるようになりました。

ある日、農夫はいつものように息子と農作業に出かけました。
息子が畑のゴミを集めて焼いていたところ、蟻塚から突然出てきた毒蛇に足を噛まれました。
息子は即死状態でその場に倒れました。
農夫はすぐに息子に駆け寄りましたが、息子が死んだのを知ると、彼を抱き上げて樹の根本に横たえ、上から衣を掛けました。
普段から修行をしている農夫は泣いたり嘆いたりすることはなく、「すべての現象は無常であり、死に至るものである」と
無常であることを観察して、畑を耕しつづけました。

その時、隣人が畑のそばを通りかかりました。
農夫は「家の方へお帰りですか」と声をかけ、「すみませんが、私どもの家に立ち寄って、家族全員が清らかな服を着て、
お香と花を持ってこちらに来るようにと伝えてくださいませんか」と頼みました。
隣人は承知して農夫の家に行き、妻に伝言を伝えました。
妻は一瞬にして息子が死んだことをさとりました。しかし、妻も普段からよく修行をしていたので、泣いたり喚いたりすることはありません。
家族全員に農夫の伝言を伝え、自分も清らかな服を着て、花とお香を持って、皆と一緒に畑に行きました。
皆、事情を察していましたが、泣き叫んだりする者は一人もいませんでした。
家族全員が集まると息子の遺体を薪の上に横たえ、花とお香を供え、薪に火をつけて息子を荼毘に付しました。
その間も、泣いたり喚いたりする者は誰もいません。ふだんの修行のおかげで落ち着いていました。

彼らの正しい行いに気付いた天界にいる帝釈天は喜びを感じ、「彼らが皆、正しい言葉を獅子吼するのであれば、あの家族を七宝で満たそう」と、
急いで下界に下りました。
農夫たちはまだ息子の遺骸を焼いていました。

通りすがりの人に変化した帝釈天は「何をしているのですか」と、農夫に話しかけました。
「火葬を行っています」
「落ち着いたその様子では、人間を焼いているはずがない。鹿の焼き肉を作っているのでしょう」
「いいえ、人を火葬しています」
「ではその人は、あなた方の敵なのでしょう」
「いいえ、それどころかうちの一人息子です」
「では、さぞ憎い子どもだったのでしょう」
「いいえ、最愛の息子でした」
「では、なぜあなた方は、我を忘れて泣き叫ばないのか」
農夫は言いました
「人は死に、蛇が脱皮するように己の身体を捨てて去りゆく。彼は行くべきところに行くのです。」

続けて農夫の妻は言いました。
「招かれずして彼の世より来たりて、来た時と同じように去る。彼は行くべきところに行くのです。」

続けて農夫の娘は言いました。
「泣き悲しんでやせ細れば、両親や親族たち、友人たちなど、親しい人を、悩ませるだけです。彼は行くべきところに行くのです。」

続けて息子の妻は言いました
「死者を追い嘆くさまは、月を追い泣く幼子と同じです。得るものなどは何もありません。彼は行くべきところに行くのです。」

最後に農夫の家の女中は言いました。
「壊れてしまった水瓶は、もう元には戻りません。死に去りし者ももう戻ってはきません。彼は行くべきところに行くのです。

帝釈天は、皆が正しくしっかりと語るのを聞き、「あなた方は死の随観の修行に励まれた。我は帝釈天である。あなた方にたくさんの財宝を与えよう。
これからも、あなた方は、施しをし、戒を保ち、懺悔をして、修行に励みなさい」。そう言って、彼らにたくさんの財宝を与えて去っていきました。

大切な人を亡くすのは、心が張り裂けるほど辛いものです。
来るべき日が来たと、頭の中では解っていても、どうにもならないものです。
悲しんで毎日なき続ける事もあるかと思いますが、その人が確かに生きていた。
その事実を心の中に留め置いてください。そしていつまでも一緒に生きてくださいね。
少しは心が楽になりますよ。

平成二十八年六月 写経の会(第三十四回目) 法 話

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