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第31回 写経の会の法話

こんにちは、こちらは慈悲の心と人の縁を、千葉市から伝え広めるお寺 日蓮宗 本円寺のブログです。
今回は第31回 写経の会にてお配りした教箋と、お話しした法話についてお書きします。

欲 張 り な め ん ど り の お 話 し

― 正しい線引き ―

昔、バーラーナシーの都の近くに大きな森がありました。森の中ほどに泉があり、
いつも清らかな水をたたえておりました。森の動物たちは皆、泉にやって来て水を飲んだり、
水浴びをしたりしました。岸辺には一年中花が咲き乱れておりました。

ある時、この森に一羽の鳥が生まれました。幼い頃から賢く、鳥の仲間たちから慕われ、
成鳥になるころにはいつしか鳥の王に選ばれていました。
この王のもとで、鳥たちは何不自由なく平和に暮らしておりました。

しかし、生き物とは不思議なものです。不自由のない平和な暮らしは愚かな者にとってはやりきれない退屈さを呼ぶもの。
鳥たちは新しい世界、もっとおいしい食べ物、もっと美しい森を求めて旅をしたいと言い出しました。
鳥の王は仕方がなく、数千羽の鳥たちを引き連れ、旅立つことにしました。

目指すは北の都。深々と雪をかぶったヒマラヤの近くまでやって来た時、鳥たちは口々に言いました。
「ああなんと美しい景色だろう」
「あの白く輝く雪を一口でも食べることができたら、私たちの寿命は数倍延びるに違いない」
「ふもとには町もある。きっと、人間たちの食べる珍しい食べ物にもありつけるだろう」
そこで鳥たちはしばらくの間、羽を休めることにしました。
少し休むと鳥たちは、近くの山や森や川へ食べ物を探しに出かけました。

群れの中に、一羽の欲張りなめんどりがいました。

めんどりはただ一羽、人間たちの住む町の方へ出かけていきました。
町の中をあちこち飛び回っていると、ある広い道の上に、米や豆や果物などのごちそうが落ちているのを見つけましたが、
その道はひっきりなしに、象や馬や牛に引かせた荷車が走っていました。ごちそうは、どうやらその荷車が落としているらしいのです。

めんどりは目を輝かせ、道に下りてごちそうをついばみました。おなかがいっぱいになると、めんどりは考えました。
・・・こんないいごちそうのありかを、仲間に知らせてやることはない。
自分だけの秘密にすることにしよう。
しかし、もし気づかれたら『あの場所は、恐ろしい象や馬に引かせた車が走っている。危険だからあそこへは近寄らない方がいい』と言うことにしよう・・・
ほくそ笑みながら、めんどりは群れに帰りました。

夕方、あちこち飛び回っていた鳥たちが帰ってくると、今日の出来事を話し合いました。珍しい食べ物、初めて見る草花や動物など、
それぞれが自慢げに話しました。めんどりも自分の番が回ってくると、仕方なくごちそうの話しをし、つけ加えてこう言いました。
「でも、あそこへは決して行ってはいけない。あそこへ行くことは、自分の命を落としにいくようなものだ」と。

鳥たちはめんどりの言葉に深くうなずきました。
「そのとおりだ。いくらおいしいごちそうでも、命を落としてしまってはどうしようもない」
そして、いい警告をしてくれたというので、みんなは尊敬の気持ちを込めて、めんどりに【警告者】という名前をつけました。

翌朝、鳥たちはまた方々へ食べ物を探しに出ました。味をしめていためんどりは、また同じ町に行くことにしました。
そしてごちそうをついばんでいると、勢いよく走ってきた荷車に、あっという間にひき殺されてしまいました。
目の前のおいしいごちそうに惑わされ、まだ大丈夫、まだ大丈夫と思っているうちに、飛び上がる機会を失ってしまったのです。

夕方、鳥の王は群れの数を調べてみると、どうしても一羽足りません。みんなで手分けして捜していると、
町の道で無残に死んでいる一羽の鳥を見つけました。王が近寄ってみると、夕べ仲間から【警告者】と名前をつけられたばかりのめんどりでした。
王はめんどりを近くの森で手厚く葬り、群れに向かってこう言いました。
「めんどりは、ほかの鳥には禁じていながら、自分でそこへ出かけていって車にひき殺されてしまった。めんどりは自分の欲に殺されたのだ」と。

自分だけは大丈夫、ここまでなら大丈夫と思うことがあります。
それはだんだんとエスカレートして、悲惨な結果を招いてしまうものです。
正しい線引きが出来るよう、心がけたいものです。

平成二十八年三月 写経の会(第三十一回目) 法 話

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